「されく魂」より
のさりとは天の恵みである。不運を幸運と読み替える。そういう豪儀な心の持ち主が水俣にはいた。
それを思い出して嫁の栄子は、「これがなぁ」、一番むずかしか。恨み返すなちゅうことが」と言って涙ぐんだ。
しかし、長い戦いの果てに彼女は、「このきつか躰で、人を恨めばさらにきつか。恨んで恨んで恨み死にするより、許そうち思う。チッソも許す。あそこにも、生きて考えとる人間のおる。水俣病はなぁ、守護神じゃもん・・」というに至るのだ。
池澤夏樹のこの著作の副題は「わが石牟礼道子抄」とある。
『池澤夏樹=個人編集 世界文学全集』では日本人としてただ一人、石牟礼道子の「苦界浄土」を採用した。
彼は石牟礼さんが亡くなったときに、生きていればノーベル賞をとれただろうというようなことを何処かに書いていた。
身近にいた渡辺京二氏や評伝を書いた米本浩二氏を除いて彼ほど、石牟礼さんを文学者として評価した人を知らない。
池澤夏樹と石牟礼道子の対談集「みっちんの声」2021年 は図書館の予約が多くて、まだ読んでいない。
この記事へのコメント