遺伝子の利己主義
個体の利他的行動に遺伝的根拠があるということは、この世界は必ずしも冷酷な利己主義ばかりが跋扈する世界ではないと言うことであり、それはすなわち私たち自身の利他主義をある程度までは期待して良いということであり、つまりそれは私たちの社会的紐帯を考えるさいの希望に思えるかもしれない。
しかしプライスは、真に無私の利他的行動、自己犠牲的な行為を追求する彼独自のキリスト教の信徒だった。彼にとって、個体の利他的行動に遺伝的根拠があるということは、希望どころか絶望の種にほかならなかった。そこでは、純然たる利他主義にみえるものが、じつはまったく別の利己主義(遺伝子の利己主義)に奉仕するものであることが暴露されているからである。
吉川浩満「理不尽な進化-遺伝子と運のあいだ」2021年 より。

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