迫という文字
迫(さこ)は、東日本で使われる谷戸(やと)や谷(や)の代わりに、同じような条件の土地を示すのに西日本で多く使われる地名(や、地名の一部)である。広辞苑では「(関西・九州地方で)谷のいきづまり、または谷。せこ。」とある。だが地形的には確かに「谷戸」とよく似ているが、状況が急迫しているただならなさが、「迫」にはある。
すぐそこまで差し迫る山。夜の闇の深さも半端ではない。だが谷戸と同じように水に恵まれ、山の幸にも恵まれる。里山、というよりももう少し山に近い。けれども明らかに山ではない場所。ここまでは人の住むところ、そこから先は人外のもものテリトリー。そういう境界性が、「迫」という一字ににじみ出ている。
これは梨木香歩「 鳥と雲と薬草袋」の水流迫(つるざこ)の章にある説明文で、迫という文字にこんな地形学的な意味があるとは知らなかった。「字通」で迫を調べると直接地形的な意味は記されていない。読み方も意味も日本で作られたものだろうか。
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