子どもを亡くした母親の涙

「ある有名な科学者には数人の弟子がいた。ある日、科学者は透明な液体を試験管に入れて持ってきて、それぞれにこの液体を調べよといって渡した。みんな、先生がくれたからどんなに貴重な液体だろうか、と意気込んで調べ始めた。しかし、結果は水と少々の塩分だけ。さてこの液体は何だったと思う?」
この先生は化学の教師であると同時に、無教会派のクリスチャン内村鑑三の孫弟子にあたる牧師さんでもあって、ユーモアがあってやさしいおじいちゃん先生だった。みんながシーンとすると、先生は「これは子どもを亡くした母親の涙だよ」と答えを言った。
科学では測れないこと、解明できないこと、人の心、人の命、その尊さ。このエピソードをはじめて聞いたとき、なんとなくその重要さを感じてはいたけれど、先生が繰り返しこの言葉をったえた理由が今になって初めてわかった気がした。公害、原発、環境問題...人の命や痛み、未来の命に対する責任をたやすく軽視する科学や企業のありようをリアルタイムで目にし、科学に携わる一教師として心を痛めてきた先生の子持ちがようやくわかった気がしたのだ。

寺尾紗穂「原発労働者」講談社現代新書2015年 より。9784062883214_w.jpg
●炉心屋は真夜中にデータを改竄●ボヤは消さずに見て見ぬふり●アラーム・メーターをつけていたら仕事にならない●燃料プールに潜る外国人労働者? ●原発施工者が一番地震を恐れている●定期検査の短縮で増える燃料漏れ●失われゆく熟練の技……3・11以前、平時の原発はどんなふうに動かされていたか? そこで働いていた6人の人生と証言から浮かびあがった驚きの実態とは? 原発をゼロから考えるための必読書。

現場の声から見えてきた驚きの実態とは?

ゼロから原発を考え直すために
ひとりの音楽家が全国の原発労働者を訪ね歩き
小さな声を聴きとった貴重な証言集!

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